契約書の必要性と宅地建物取引業者に課せられた義務、不動産売買契約書へ記載すべき事項について解説します。(2020年12月)

契約書の必要性

売買契約は、いわゆる諾成契約であり、口頭による当事者間の合意だけで有効に成立するものとされていますが、社会通念上、不動産に関する契約は、当事者が契約書に署名押印することで成立するものと考えられていることや、契約書が紛争時の証拠となることから、当事者間の合意内容を書面化(契約書を作成)することが一般的となっています。

なお、買付証明書や売渡承諾書が当事者間で交換されたとしても、原則として、それだけでは売買契約が成立したものと認めないのが一般取引慣行や判例の考え方です。

 

宅地建物取引業者の義務(37条書面の交付)

宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買、交換に関して、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者、媒介により契約が成立したときは両当事者に、それぞれ契約の成立後、遅滞なく所定の事項を記載した書面(これを「37条書面」といいます)を交付する義務を負っています。
この義務は民法の原則にかかわらず、宅建業者に課せられたもので、業者間取引の場合や相手方等の承諾があった場合でも交付を省略することはできません。

実務においては、宅建業者が宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)第37条第1項に基づく書面の交付義務を果たしていることを明確にするため、宅建業者が記名押印した「売買契約書」の交付をもって、宅建業法の定める「37条書面」の交付に代えているのが通例です。

37条書面に記載すべき事項

宅地建物取引業法では、「37条書面」に記載すべき事項として、「必要的記載事項(定めがないときでも必ず記載しなければならない)」と「任意的記載事項(定めがあるときは記載する)」を定めています。
ただし、これら宅地建物取引業法で定められた記載すべき事項は必要最小限のものであり、実際の契約行為においては、それ以外にも契約の当事者間で定めた事項があれば当然にそれを書面に明記します。

37条書面に記載すべき事項

 

宅地建物取引士の記名押印

宅地建物取引業者が「37条書面」を交付する場合、作成した書面には宅地建物取引士が記名押印をしなければなりません。
例えば、宅地建物取引業者が自ら売主として他の宅地建物取引業者の媒介により契約が成立した場合、売主業者と媒介業者はそれぞれ自社の宅地建物取引士に記名押印させる必要があります。
ただし、この取引士は専任の取引士である必要も、当該契約の締結までに行う重要事項説明を行った取引士である必要もありません。

なお、宅地建物取引士が「37条書面」に記名押印したからといって、その契約の履行について取引士個人が単独で保証をしたと解されるものではありません。あくまでも、その契約に対して、宅地建物取引業者が宅地建物取引士をして注意義務を尽くして行った契約であることの宣言であると考えられています。
したがって、宅地建物取引業者の責めに帰す事由により契約が履行されず、当事者に何らかの損害を与えてしまった場合には、当然に宅地建物取引業者と宅地建物取引士の両方に責任が生じることになります。